資本性劣後ローンについて

資本性劣後ローン(しほんせいれつごローン)とは、金融機関や投資家が企業に対して提供するローンの一種で、企業が財務上の支援を受けるための手段です。このローンは、一般的な債務(通常の借入や負債)に比べて返済順位が低い「劣後」の位置づけにあるため、企業が破産や清算に至った場合、他の債権者(例えば、通常の債務者)よりも後に返済されます。劣後という特徴により、資本的性質が強く、一定の条件のもとで自己資本として扱うことができるため、企業の財務健全性を高める目的で活用されることがあります。

資本性劣後ローンの主な特徴

1. 返済順位の劣後

他の債権者に対する返済が優先されるため、リスクが高い。

2. 自己資本とみなされる

会計や規制上の要件を満たす場合、自己資本として認められるため、企業の財務諸表における債務超過や自己資本比率の改善につながることがある。

3. 期限や返済条件の柔軟性

資本性を持つため、通常のローンよりも返済条件や金利が異なる場合がある。

4. リスクとリターン

投資家にとってはリスクが高いため、通常の債券よりも高い利回りを求めることが一般的。

このローンは、特に成長企業や一時的に資本不足に陥っている企業にとって重要な資金調達手段となり得ますが、同時に提供者にとってはリスクが高い投資ともなります。

資本性劣後ローンのメリット

企業にとって財務面での安定性や柔軟性を提供する点にあります。

1. 自己資本の強化

資本性劣後ローンは、一定の条件を満たせば自己資本として計上されるため、企業は借入金でありながら自己資本比率を向上させることができます。これにより、財務体質の強化が図れ、企業の健全性が高まります。

2. 株式の希薄化回避

資本調達の一つの方法である株式発行は、既存株主にとって持分が希薄化するリスクを伴いますが、資本性劣後ローンを利用することで、株式を発行せずに資本を調達することができます。これにより、株主価値を守りながら資金調達が可能です。

3. 返済順位の低さ

劣後ローンは、通常の債務に対して返済順位が低いため、企業が財務的に厳しい状況に陥った場合でも、他の債務の返済が優先されることから、資金繰りに柔軟性を持たせることができます。

4. 金融機関からの信用向上

自己資本比率が高まると、企業の信用力が向上し、金融機関からの融資が受けやすくなったり、取引条件が有利になることがあります。これにより、事業拡大や投資活動が円滑に進む可能性があります。

5. 資金調達の多様化

資本性劣後ローンは、通常の借入や社債発行に加えた新たな資金調達手段として活用でき、企業は資金調達手段の多様化を図ることができます。これにより、資金調達の柔軟性が向上し、経営戦略に応じた最適な資金調達が可能です。

6. 金利負担の軽減

資本性劣後ローンの条件によっては、一定の猶予期間や低い金利負担での資金調達が可能な場合があります。これにより、企業は短期的なキャッシュフローへの負担を抑えつつ、資金調達を進めることができます。

7. 長期的な資金安定

資本性劣後ローンは通常、返済期間が長く、返済条件も柔軟な場合が多いため、企業は長期的な資金調達計画を立てやすくなります。これにより、急な資金繰り悪化に対処でき、持続的な事業運営をサポートします。

これらのメリットにより、資本性劣後ローンは成長企業や再建を目指す企業にとって重要な資金調達手段となります。

資本性劣後ローンのデメリット

 1. コストが高い

資本性劣後ローンは、通常の借入金や社債に比べてリスクが高いため、貸し手はそのリスクを反映して高い金利を要求することが多いです。そのため、企業にとっては利払い負担が大きくなる可能性があります。

2. 返済負担が依然として残る

資本性劣後ローンはあくまでローンであり、最終的には返済義務が伴います。企業の業績が悪化した場合、通常の借入金よりも返済の優先順位が低いとはいえ、返済のプレッシャーは依然として存在し、特に金利負担が高い場合には経営に負担がかかる可能性があります

3. 株式よりも柔軟性が低い

資本性劣後ローンは自己資本のように扱われることがあるものの、株式とは異なり、返済義務が発生します。そのため、株式発行による資本調達と比較すると、返済期限や利息支払いなどの制約があり、完全な資本増強手段としては柔軟性に欠けます。

4. 資金調達の制限

一部の資本性劣後ローンでは、企業の業績やキャッシュフローが厳しくなった場合でも、金利支払いや一部返済義務が維持されることがあり、資金繰りに圧迫を与えることがあります。これにより、他の投資や運転資金に影響を与える可能性があります。

5. 企業の信用力への影響

資本性劣後ローンはリスクが高い金融商品であるため、発行によって企業の信用リスクが評価される場合があります。特に企業がこのローンを多用することで、金融機関や投資家から「財務的に厳しい状況」とみなされるリスクがあります。

6. 破産時の返済順位が低い

企業が破産や清算に陥った場合、劣後ローンは他の一般的な債務に比べて返済順位が低いため、貸し手にとってはリスクが高くなります。これは貸し手側のリスクですが、調達コストに影響するため、間接的に企業の負担となることもあります。

7. 規制や条件が厳しい場合がある

資本性劣後ローンが自己資本として認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。これには返済期限や条件、企業の経営状況に関する制約が含まれる場合があり、企業の資金調達や運営に制限が加わることもあります。

8. 負債比率の増加

資本性劣後ローンは会計上、自己資本として扱われることがある一方、実質的には負債の一部であるため、企業の総負債額は増加します。これにより、財務指標の一部(負債比率など)が悪化する可能性があり、企業の財務構造が弱く見えることがあります。

資本性劣後ローンの活用方法

資本性劣後ローンは、財務構造を強化しながら資金を調達できる便利な手段ですが、コストや返済義務などを十分に考慮した上で、適切なバランスで活用することが求められます。資本性劣後ローンは、企業が資金調達を行いながらも自己資本を強化したい場合や、財務健全性を高めたい場合に活用されます。具体的な活用方法としては、以下のようなケースが考えられます。

1. 財務改善・自己資本比率の向上

資本性劣後ローンは、条件によって自己資本として計上できるため、企業は負債を増やさずに資本を増強することができます。これにより、自己資本比率を高め、財務体質を改善できることが大きなメリットです。特に、新規事業の立ち上げや大規模な設備投資を行う際に、銀行からの融資を受けやすくするための手段として有効です。

2. 資本コストの低減

資本性劣後ローンは、自己資本として認められるため、株式発行といった他の資本調達手段と比べて希薄化リスクが少なく、資本コストを抑えることができます。これにより、株主価値を損なわずに資本を強化することが可能です。

3. リファイナンス(借り換え)

資金繰りが厳しい企業が、既存の債務を劣後ローンに借り換えることで、返済順位を下げて資金繰りを改善することができます。これにより、短期的な財務負担を軽減し、経営を安定化させることができます。

4. 企業の成長資金

成長企業が新規事業や海外展開を進める際、十分な資本を確保するために資本性劣後ローンを活用することがあります。自己資本として扱えるため、財務面での安定感を保ちながら、積極的な事業拡大を図ることが可能です。

5. 破綻防止策

企業が財務的に厳しい状況にある場合、資本性劣後ローンを使って他の債務の返済を先送りしつつ資金を確保することで、即時の破綻を回避することができます。これにより、企業は再建に向けた時間を確保できるため、事業再生やリストラを進める時間的猶予を得ることができます。

6. 信用力向上

自己資本が増えることで、信用格付け機関や取引先からの評価が向上し、金融機関からの追加融資や新規取引先の開拓に有利になることがあります。結果的に、企業の事業運営がスムーズに進む可能性が高まります。

資本性劣後ローンは、リスクを伴うものの、企業にとって柔軟で強力な資金調達手段となります。特に長期的な成長戦略を持つ企業にとって、効果的なツールとして活用されています。

日本政策金融公庫の資本性劣後ローン取り組み状況

新型コロナウイルス感染症により深刻な影響を受けている経済環境下にあって、関係機関の支援を受けて事業の発展・継続を図る方などを対象に、財務体質強化を図るための資金を供給する「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」の取扱いを令和2年8月から開始しており、令和5年3月末時点での融資実績は、8,335先、1兆296億円となりました。

新型コロナ対策資本性劣後ローン業種別活用事例集

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shihonseiretsugo_jirei.html

早期経営改善計画策定支援事業を利用した、日本政策金融公庫のコロナ資本性劣後ローン申込時の計画策定支援について

令和6年3月8日に、経済産業省は、民間ゼロゼロ融資の返済本格化に加え、保証付融資の増大や再生支援のニーズの高まりを踏まえ、中小企業支援をより一層強化すべく、金融庁・財務省とも連携の上、「再生支援の総合的対策」を策定しました。その中で、政府系金融機関による支援強化策として、早期経営改善計画策定支援事業(ポスコロ事業)を通じて策定した事業計画を、日本公庫のコロナ資本性劣後ローンの申込時に必要な事業計画(民間金融機関の協調融資を伴わない場合)として活用できるようにしました。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2024/240308saisei.html

NKconsultingの想い

新型コロナや物価高騰、深刻な人手不足など、中小企業・小規模事業者は厳しい状況であります。資金繰りも厳しい中、コロナ融資などで事業継続をしていた企業も借入金の返済がはじまり、更なる重荷となっております。また国税庁の発表によれば赤字企業は60%を超えており、収益力の改善は急務であると言えます。金融支援を受けたくても、追加融資を断られたり、保証協会や商工会議所の専門家派遣サービスを受けても業績回復に至らなかったり、沢山の事業者の方が苦しんでいると思います。NKconsultingは中小企業の事業再生、資金繰り支援を事業者と一緒に考えて解決に向けて今も走り続けています。ひとりでお悩みを抱えず是非ご相談ください。